青年劇場

第92回公演、「族譜」、新宿紀伊国屋サザンシアター

作:梶山季之、脚本、演出:ジェームス三木

朝鮮半島が日本の占領下の頃、朝鮮総督府は朝鮮人の姓名を日本風のものに改めさせるという創氏改名の政策を取っていた。
日本人は結婚して姓名が変わる文化があるが、朝鮮半島では族譜という家系を記録する書物があり、
朝鮮の人には、創始改名が極めて暴力的で不当な行為であったため、祖先に対して申し訳ないと自殺者まで出ることとなった。
2ヶ月ほど前、出張で韓国に行った際、現地の社長に尋ねたところ、
50世代余りの家系を綴った厚さ20cmほどの族譜を代々伝えているということだった。
また、族譜は家長が引き継ぐのではなく、兄弟姉妹が複数いれば親から各人に手渡される。
そのため、韓国では結婚した後も姓名が変わることがない。
「氏」を大事に子孫に引き継ぐ文化があるため、日本人にとっては族譜が中々理解できない。
韓国が族譜を大事に継承するのは、激動の歴史を切り抜けたいまもなお、自分と氏の存在を明確に主張するためにあるのかも知れない。

第91回公演、「尺には尺を」、新宿紀伊国屋サザンシアター


訳:小田島雄志、演出:高瀬久男

シェイクスピアの小説は、ロミオとジュリエット、マクベス、ハムレット、リヤ王などを読んだ。
青年劇場では初めて観るシェイクスピアだった。
現代の簡略化された会話とは異なり遠まわしで難解な表現が多いので、少し解りやすくして欲しいと感じてしまうが、
そうしてしまうとシェイクスピアの特徴も失われてしまうので難しいところだ。
日本的な見方をすれば、「尺には尺を」は「遠山の金四郎」に通じるものがある。
それにしても演劇の始まり方には驚いた。
普通、劇場内の灯りは演劇開始前に照明を落とされるが、この演劇は照明がまだ落とされていない状況、
しかも場内アナウンスが携帯電話の電源を切れだのと言っているときに既に始まっていたのである。
一人の浮浪者がうつろな表情で空を見上げて舞台の右側から歩いてくる。
大道具係が舞台を点検しているのかと思っていたら、その後左右から数人の浮浪者が現れてきた。
それと、舞台劇は観客に背を向けることが殆ど無いが、この演劇の演出に関しては意識的に背を向けているのが
明確に解るポジションを役者が取っていた。
それにしても夫々の役者が難解で長い台詞を良くも暗記できるものと関心してしまった。

第89回公演、「ナースコール」、新宿紀伊国屋サザンシアター


作:高橋正圀、演出:松浪喬介

特定の職業にスポットを当てたテーマはこれまでに余り例が無い。
ストーリーがあるようでいて特になく、日常的なナースセンターでの出来事をユーモラスに描いていた。
ナースの悩みや不満を本音トークとしか思えない台詞で物語が展開された。
舞台は初めから終わりまでナースセンターのセットで、その左脇に病室のシーンなどをオムニバス風に取り入れていた。
その病室のシーンで老婆が頑なに食事を拒んだり看護婦を無視したりする風景は、
昨年他界した母と同じ病室にいた隣のベッドの老婆の仕草に良く似ていて、思わず笑みがこぼれた。

気分の良い時はおしゃべりで愛想も良いが、気分が悪いと息子に当たり駄々をこねるところが良く似ていた。
それでも看護婦の間では人気があって、お下げの髪型にしたり頭にリボンを付けてもらったりしていた。
食事をろくに食べないでお菓子や果物をベッドの中に隠してつまみ食いしていた。
昼食時に間に合わなかったときなどは、お互いに隣のよしみで配膳やお茶などの世話をしていた。
ある意味で、手に負えない子供を相手にしているような印象だった。
母と同じく昨年他界したが、正に愛すべきお婆さんだった。


第88回公演、「3150万秒と、少し」、シアターサンモール


作・演出 : 藤井清美

1050回の公演回数を記録した青年劇場のロングラン「翼をください」と同じく高校時代を背景にしている演劇で、
「純」な頃の精神がテーマになった演劇を観てしまうと、涙腺が弱い自分は演劇終了から照明が点くまでの時間を短く感じてしまう。
悩んで、迷って、反発して、泣いて笑って、夜更かしをして、旅していた頃、
この僅か数年の時代が如何に大きなキヤリアとなっているか、歳を重ねれば重ねるほどそう思う。
クラスメートとスキーに行くバスが雪崩に合い、12人のうち2人が生き残る。
何故、自分達だけが生き残ったのか、生きていく意味は何なのか。命とは人生とは何なのか。
そして何かを失うとき、どうやってそれに向き合いそれを乗り越えるのか。
12項目の「やることリスト」に託されたメッセージ。
青年劇場、久々のヒューマニズムをテーマとした演劇だった。

創立
40周年記念、第87回公演、「夜の笑い」、新宿紀伊国屋サザンシアター

作:飯沢匡、演出:松浪喬介

修身の授業中にアンパンを食べた生徒5人が、教師に見つかり校則に従って自決するように説得され、
教師と生徒、その家族の翌朝までのやり取りが面白おかしく演じられていた。権威とは所詮、虚像なのかもしれない。
また、夏目漱石作「坊ちゃん」の教師のキャラクターを旨く流用してストーリーのアクセントにしていた。
最近の青年劇場の演目は思想的な面が色濃く、人間性を主題としたものが少なくなったような気がする。

創立40周年記念、第86回記念公演、「悪魔のハレルヤ」、新宿紀伊国屋サザンシアター

作・演出 : ジェームス三木

これまでの青年劇場には見られない華やかなセット。赤、白、青のロングドレスを身に纏った女優陣。
舞台は、天国の審問所。戦後の日本に、CIAによる不当な内政干渉があったかどうか、真実を明らかにするための審問が始まる。
元CIA東京支局長の審問から始まり、沖縄返還時にニクソンとの密約に関わった当時の総理大臣、佐藤栄作。
左翼寄り指導者としてCIAの標的となったスカルノ大統領、占領軍と戦った沖縄人民党党首、瀬長亀次郎の審問へと続く。
合間にインドのガンジー、横井庄一が現れ、最後に負傷した一人の女性が舞台に現れる。
「道に迷っています。自分は何処に行けば良いのでしょうか?」
ガンジーが尋ねる。「あなたのお名前は?」
「ニホンコクケンポウといいます。」

【これまで観た青年劇場の演劇】
・真珠の首飾り
・17歳のオルゴール
・銀色の狂騒曲
・ホヤ我が心の朝
・唱歌元年
・こんにちはかぐや姫
・翼をください
・愛が聞こえますか
・菜の花ラプソディー
・袖振り合うも
・79回公演 カムサハムニダ
・80回公演 ケプラー憧れの星海航路
・81回公演 愛さずにはいられない
・82回公演 銃口
・83回公演 2階の女
・84回公演 キジムナー・キジムナー
・85回公演 ガルフ、弟の戦争



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